中小企業のための労働時間短縮の実務
現在、多くの中小企業でサービス残業、過剰な時間外労働時間などの問題が発生しており、大きな経営課題となっているのが労働時間の短縮です。
この問題は単に労働基準法の問題であったり、人件費削減の必要性にとどまらず、まさに経営そのものの問題となっています。
CSR(企業の社会的責任)が叫ばれている昨今、この問題に企業が真正面から取り組む必要があります。つまり、実際に生産性を低下させることなく、労働時間を短くすること、または残業時間を削減することです。
従業員の行なっている作業を科学的な目で分析し、作業効率の改善について検討し、そして実践することで従業員の生産性は大きく向上することが多くの職場で実証されています。
ぜひ、真正面から作業の生産性の向上・改善に取り組むことをお勧めします。
1.問題を明確化する
◆サービス残業問題への対応
◆過剰労働問題への対応
「労働時間を短縮する」という課題に取り組む場合、最初にすべきことは時短という問題、または課題を明確にすることです。
労働時間の短縮が問題となっているのは、①サービス残業への対応、②従業員の多すぎる残業時間への対応などがあります。
労働時間を短縮するという課題を議論する場合、次の3つの側面があることを認識しておく必要があります。
(1) 経営面からの視点
(2) 労働者からの視点
(3) 実質的な労働時間短縮
(1)の経営面からの視点では、法違反の回避と残業代の削減があります。労基法の違反となっている実態を解決することは当然の義務ですが、実際の作業時間を短縮しないままでこの問題を解決することは容易ではありません。また、人件費の増大要因となっている残業代の削減課題も実際の労働時間短縮が優先課題です。
(2)の労働者からの視点では、健康問題はもちろんのこと、精神面にも悪影響を及ぼしている危険があります。また、最近活発な議論となっているワークアンドライフバランス(仕事と家庭のバランス)についても過剰な残業時間は今後解決されるべき大きな問題です。
(3)そして実質的な労働時間の短縮です。この課題こそが最重要であることを明確に認識すべきです。「労働時間を短縮する」という課題は、残業代として支払われる人件費を削減することでもなければ、労働基準法に適合するように就業時間の管理方法を変えることでもありません。従業員が実際に労働している時間を短くすることが真の課題です。
2.法的・管理的残業代削減の方法
実質的な労働時間短縮の前に、「法的・管理的な残業代削減の方法」について少し見ておきましょう。
(1)法的な時短
労働基準法からみた時短の方法には、①就業規則の見直し、②みなし労働時間の適用、③変形労働時間の適用、④シフト制の採用、⑤時差出勤の採用などがあります。
(2)管理的な時短
管理による時短の方法としては、①ノー残業デーの設定、②残業申告制などの方法が一般的です。
これらの対策も非常に大切ではありますが、これらは実際の作業時間を短縮していませんので、本当の問題解決とはなっていません。真の課題は実際に労働時間を短縮する、つまり作業の生産性を高めることにあります。
3.実質労働時間短縮へのアプローチ
実質的に労働時間を短縮するということはどういうことかを良く理解しておく必要があります。
企業において「労働時間を短縮しましょう」と言った場合、従業員や管理者の皆さんがまずおっしゃるのは、・そんなことをすれば不良品が増える・お客様へのサービスが低下してお客様に迷惑がかかるなどです。この意見は、労働時間を短縮することは「手抜き」をすることだから、不良品を出してしまったり、納期を守れなかったり、サービス業や流通業では、お客様へのサービスが低下してしまう、といったことが連想されています。
しかし、「労働時間を短縮する」という意味は、「科学的な方法を用いて作業の生産性を高めること」です。製造業では、生産高を維持しつつ作業員の労働時間を短縮することであり、流通・サービス業では、成果を維持しつつ従業員の労働時間を短縮することを意味しており、決して「手抜き」をすることではありません。
4.実質時短と法的時短の両面から
実労働時間の短縮は、現在行なっている作業をいかに合理的に行なうか、という視点から、現状把握から分析を行い、そして改善を実施するという科学的なアプローチによって生産性の向上を図り、その結果によって実質的な時短を実現するとともに、みなし労働、フレックス制、変形労働制、シフトなどの法的な対策を織り込むことによって人件費の削減も実現する可能性は大きいといえます。
さらに管理的な側面や教育面などから労働時間を短縮する方法も検討することが必要です。
5.作業とは?
従業員は毎日仕事をこなしていますが、ここで、毎日行なっている「仕事」または「作業」とはどのような内容のものが含まれているかについて整理しておきましょう。
作業時間、つまり就業時間から休憩時間を差し引いた時間は、次のような構成となっています。
- 作業・・・「主作業」と「付随作業」から成る主体作、および「付帯作業」
- 余裕・・・「作業余裕」と「職場余裕」からなる管理余裕、および用達や休憩などの「人的余裕」
- 非作業・・・作業していない状態
これらの作業時間のうちで、お金になっている作業は「主作業」のみであり、他の作業はこの「主作業」を行なうための周辺作業であることを認識しなければなりません。
6.作業の種類
作業の種類を説明すると、
(1)主作業・・・お金になっている作業、またはその職場で成果に直結している作業を言います。
製造業では、「部品を機械で加工している時間」、「機械を組み立てている時間」などがこの作業にあたります。小売業では、「お客様と接客している時間」、「商品をお客様に説明している時間」などであり、レストランでの主作業は、厨房では「肉や野菜のカット」や「煮炊き」、「盛り付け」であり、フロアでは「お客様にサービスしている時間」となります。
(2)付随作業・・・主作業をおこなうためにどうしても欠かせない「主作業」の前後、または途中の作業をいいます。
製造業では、「部品を機械に取り付けたり取り外したりする作業」や「加工途中の寸法検査」などであり、小売業では、「商品の陳列作業」や「値札付け」などであり、レストランでは厨房での「肉や野菜の準備」であり、フロアでは「テーブルクロス作業」や「グラス準備」などがあります。
(3)付帯作業・・・本来の目的を達成するための準備、段取り、後始末、運搬などの作業をいいます。
製造業では、「運搬」、「図面を見る」、「手直し作業」などがあり、小売業では「仕入れ伝票記入」、「仕入商品検査」などです。レストランでも「材料仕入」や「材料チェック」などはこの作業に分類されます。
(4)余裕・・・・管理のための時間や就業期間中の休憩、書類記入、手待ちなどの時間をいいます。
7.実質労働時間短縮の考え方
実労働時間を短縮する、別の言い方をすれば生産性を向上する場合のアプローチ順序を説明しましょう。
まず、現在の作業の内容を測定し、分析します。そしてそれらの作業のなかの「主作業」とは何なのかを明確に定義します。
そして「主作業」以外の作業、つまり付随作業、付帯作業、余裕はどのようなものがあるのか、どれだけの時間がこれらに使われているのかを測定します。
さらに、主作業以外の作業、つまり「その他の作業」を削減する方法を検討し、IE手法を用いたり、作業改善を行なうことでその他の作業の効率化を図ります。
そうすると、「その他の作業」に費やす時間が短縮されますから、結果的には「主作業」を行なう時間が増大する、つまり作業時間全体としてみれば、生産性が増加することとなります。
金属部品を加工しているある現製造場の1日を見てみましょう。
どんな作業が行なわれているのか想像してみると、溶接している人がいます。溶接棒の先から火花を出している人、機械を組み立てるためにドライバーを回している人、寸法の検査をしている人、何かを運んでいる人、歩いている人、伝票に記入している人など色々な作業をしています。
このような作業を分類すると、主作業、付随作業、付帯作業、作業余裕、職場余裕などのグループに分類されます。
職場の作業員がこれらのいろいろな作業を行なっているわけですが、どのような作業が、どのくらいの割合でされているのかを測定、分析することが作業改善の基本です。
よく社長さんに「今は仕事の少ない時期ですから、生産性は悪いと思いますよ」といった意見が出ますが、実はこれらの作業の比率を測定するので、仕事の繁閑にはあまり関係ないのです。時間があればゆっくり作業を行ない、仕事が多いときは急いで仕事をすることとなるのですが、その作業内容の比率は変わらないのです。
ある製造現場の1日(金属部品製造)
これらの作業の比率を計算すると、次のようになったとします。
① 主作業・・・・25.7%
② 付随作業・・・30.0%
③ 付帯作業・・・28.6%
④ 作業余裕・・・8.6%
⑤ 職場余裕・・・2.9%
⑥ 人的余裕・・・4.3%
この意味を分かりやすく説明すると、もし作業員が100人いるとすると、そのうちの25人がお金になる仕事をしており、残りの75人はお金になる仕事をしている25人のために段取りしたりサポートしたりしている状況だといえます。もう一つの言い方をすれば、4人に1人がお金になる作業をしており、残りの3人が段取りばかりしている状況ともいえます。
生産性の改善は、付随作業、付帯作業、そして余裕の作業を改善してこれらの比率を下げることを狙いとします。
次にある卸売り業の営業マンの一日を見て見ましょう。
ある営業マンの出社は9時前です。そして朝礼および朝のミーティングが30分行なわれて、それから約1時間半、事務所で書類作成や電話をかけて事務所内で作業を行ない、11時ごろに外出して顧客の訪問を始めました。昼の休憩は社外で取り、2時に帰社して再び事務作業を社内で行なっています。また、3時半頃から営業に出かけて、6時ごろに帰社しています。
それから1時間事務作業や電話をして再度営業に出かけて8時ごろ帰社し、10時まで事務所内で事務作業を行なって帰宅の途についているとします。
ただこれだけの調査データでは何をどのように改善すればいいのか、全く分かりませんが、これらの作業内容を、① 事務所内での作業の内容を分析する、② 社外での作業の内容を分析するの2つに分けて分析・検討することによっていろいろな改善が可能となります。
8.流通・サービス業の労働時間短縮1
前述の営業マンの行なっている作業について、事務所での「事務作業」の内容を分類してみましょう。
①主作業
顧客との電話
②付随作業
見積書作成作業(見積書を書いている時間のみ)、提案書作成、契約書作成
③付帯作業
仕入先との電話、仕入のための発注書作成、在庫の調査確認など
④余裕
待機時間(顧客の連絡を待っている時間)、書類の整理、会議、打ち合わせ、その他の資料作成など
このように事務所内での作業の内容を出来るだけ正確に測定するか、自己申告してもらいます。そして、これらの作業のうち、付随作業、付帯作業、余裕に使われている時間を短くする改善を計画、実施します。
この場合、いろいろな反対意見が出されるのが通常です。つまり、
- 営業は腕だ。そんな分析をしても人によってやり方が違うからそれで売上がよくなるとは思えない
- 見積書の作成や提案書に時間をかけないと契約にもっていけないよ。そんな大切な時間を減らせない
- 仕入先との連絡が疎かになると大変なミスが出てしまう
その他、いろいろと反対意見が出されますが、要は今行なっているやり方を否定されることに大きな抵抗を感じてしまうのが通常です。長年行なってきたやり方を変えようとするのですからいろいろな抵抗があるのは当然です。
しかし、今までの方法を一度見直ししてみることの大切さを説明して、ぜひ一度行なってみることを勧めましょう。
9.流通・サービス業の労働時間短縮2
同様に社外で営業活動をしている時間帯の作業も分析してみる必要があります。
といっても喫茶店やパチンコでサボっている時間を見つけるためではありません。
どのような時間の使われ方をしているかを正確に知るため、そして無駄な時間を少なくするための改善を行なうために現状を知ることが目的です。
主作業としての作業は、顧客との対話時間です。対話の内容が上手かどうかとか契約につながる内容かどうかを議論するではなく、単に顧客との対話、つまり営業としての本来の作業に使われた時間を測定します。
付随作業としては、客先での待ち時間があります。少し早めに行って顧客を待っている時間です。
付帯作業は、移動時間、仕入先の訪問などがあります。そして余裕には、休憩や食事時間となります。
事務所作業の場合と同様に、付随作業、付帯作業、余裕の時間を少なくする、といっても休憩や食事を少なくしたり、客先での待ち時間を無くするといった短絡的な結論を導くのではなく、実際的な改善策を見出すことを目的とします。
10.労働時間短縮のためのアプローチ
労働時間短縮のためのアプローチとして昔から行なわれている手法に、IE手法(Industrial Engineering手法)があります。この手法は前述のように作業を分類したり、モノ(材料や製品)の流れを調査したり、またそれによって機械の配置を変更したりしながら生産性の向上を図る方法です。
その考え方は、「現状を把握し、主作業比率を分析し、そして主作業以外の作業を削減する改善策を検討することによって、結果的に主作業の比率を向上」しようとするものです。
11.製造業の労働時間短縮(生産性向上)
では、製造業の労働時間を短縮する、つまり生産性を高めるにはどのような手順で行なうかについて見て見ましょう。
12.生産管理とIE
製造業においては、生産性を左右している要素には2つの側面があります。一つは「管理システム」です。ある部品を加工するためにどのような組織で仕事を行うか、管理のための制度をどのように作るか、生産計画をどのように立てるか、材料の納期管理、機械の割り当て計画、人員の配置など、管理に関係する、言わば生産のソフト面です。
もう一つは「物的システム」です。機械の設備、生産方式、運搬方法、作業の方法などの物的面からみた場合で、言わばハード面です。
お客様の望むサービスをより安く安全に生産するためには、全社的な管理活動として「管理システム」と「物的システム」の両面から展開することが必要です。
IEの対象としているのは、この「物的システム」の側面から改善です。
13.労働時間短縮プロジェクトの特徴
労働時間短縮を実現するために、社員や管理者をメンバーとしたプロジェクトを結成し、上からの押し付けや外部のコンサルタントの指導によるものではなく、労働時間の短縮を自分たちの課題として取り組もうという方式で行ないます。
この活動のポイントは、次のとおりです。
- IE手法を活用する
- お金になる作業を知る
- 作業のムリ・ムラ・ムリなどを排除する
- そして品質、原価、納期、安全について改善する
14.労働時間短縮の期待効果
労働時間の短縮、言い換えれば生産性の向上が実現すればどのようなメリットがあるのでしょうか?
まず、
①生産性が向上します。同じ成果がより少ない人数、または少ない時間で実現するようになります。
②現場作業者まで改善体質が身に付くため、その後の改善も期待できます。
③労働時間の短縮によって、時短が実現できる
④生産性向上による余剰人員が営業などに廻せる
⑤納期の短縮が図れる
⑥原価の低減や不良の低減が図れる
⑦組織が活性化し、社内コミュニケーションが改善される
このように生産性向上プロジェクト活動は単に生産性向上という直接のメリットがあるのみでなく、従業員の改善意識を高め、職場の改善風土を作り出す効果も期待できます。
15.プロジェクトの結成
プロジェクトを結成すれば、次の手順でプロジェクトを推進します。
(1) 問題点の把握
職場の問題点を従業員の皆さんに理解していただくために「フレームワーク」というアンケート調査を行ないます。このアンケートでは、どのような問題が職場に存在しているのか、どんなことが皆さんの課題となっているのかなどを書いていただいて、職場全体の問題点・課題を明確にします。
(2)現状の調査
まず、どのようにモノが流れ、作業が行なわれているのか、「工程分析」という方法で明確化します。この分析作業ではモノの流れ方、加工の順序、材料の停滞、運搬方法などを調査します。次に行なうことは、機会の稼働率分析です。
どの程度機械が動いているのか測定分析します。
そして作業員がどのような作業を行なっているのか、という視点で測定・分析します。
これらを「稼働率分析」といいます。
(3)改善活動
そして改善のための活動です。上記のプロジェクト活動で測定・分析した結果を基に、改善案を探す作業に入ります。通常の改善活動は、次のような課題を行ないます。
- 整理整頓(2S)
- レイアウトの改善(材料や工具の置き場、機械の場所などの改善)
- 作業改善(運搬、作業方法の改善)
- 治具、工具などの改善
- 多能工化(いろいろ出来る作業員を育成する)
16.生産性向上のアプローチ
再度、生産性を向上するためのアプローチについて述べておきます。
生産性の向上は、まず最初に行なうべきことは「お金になっている作業」を明確に分離、認識することです。そしてそれ以外の作業を探し出して、それらの削減を図ります。
こうしてお金になっていない作業を見つけ出してそれを削減することによって、主作業、つまりお金になっている作業時間が増加する結果となります。
生産性向上を「頑張れ主義」という精神論で解決しようとしたり、「早く仕事をしろ」という抽象的な指導をするアプローチをとるのではなく、科学的に測定し、分析し、そして改善策を考える方法をとります。
さらにこの「お金にならない作業を削減する」というアプローチを行なった後に、お金になる作業である「主作業」そのものの効率アップに取り組むこととします。初めから主作業効率のアップを狙うのは間違いである場合が非常に多いことを理解しておいて下さい。
17.生産性向上プロジェクトのスケジュール
プロジェクト活動のスケジュールは、その対象工場によって変化しますが、概ね、10~12ヶ月を目安にプロジェクト活動計画を作成します。
月に2回程度のプロジェクト会議を行なうことで、各回3時間程度の活動時間で行なうのが適切だといえます。
労働時間の短縮の必要性、フレームワークなどの準備、そして稼働率測定などの現状把握に3ヶ月、工程分析1ヶ月、要因分析に2または3ヶ月、そして改善案の立案、実践に3ヶ月、そして多能工化などの課題に1ヶ月といったスケジュールが標準的といえるでしょう。
18.フレームワーク作業の構成
プロジェクトの最初に行なうフレームワーク作業では、IE活動の基本方針を決定するのですが、その際に顧客のニーズ変化、将来の方向性、社会の変化など、さらに現在の経営方針や工場の方針を考えます。
また、現在の生産現場における問題点や課題なども考えなければなりません。
こうしてメンバーの意見を中心にこれからの生産性向上プロジェクトの基本方針を決定します。
19.工程分析(1)
フレームワークの次に行なう作業は、工程分析です。
ものの流れを次の5つの記号で表現してゆきます。
- 加工
これは物の姿が変化している作業でお金になっている作業を意味します。 - 運搬
モノが動かされている状態です。手で運搬、リフトで運搬、クレーンで運搬などがあります。 - 検査
検査工程です。寸法などの各種検査、数量確認などを言います。 - 貯蔵
モノが貯蔵されている状態です。倉庫に貯蔵、材料棚に貯蔵、材料置き場に置かれている、などの状態を言います。 - 停滞
モノが止まっている状態です。加工待ち、出荷待ち、検査待ち、などの状態です。
これらの記号を用いて、材料から製品が出来てゆく過程を図に表してみます。
この作業でかなり多くの工程、作業が行なわれていることが判明します。
20.工程分析(2)
さらに工程分析で表した工程図を向上の配置図に落とし込んで見ます。
そうすると、モノの流れが鮮明になり、モノがどのような流れ方を(移動の仕方)をしているか客観的に見ることができます。この場合に、物の流れがあまり交差することなく、分かりやすく表現できていればいい機械配置であると言えますが、この線がいろいろと交差していたり、行ったり戻ったりしていると機械の配置に問題があるという結論になります。
この図が機械配置の改善課題となります。
21.稼働率分析(ワークサンプリング法)
次のアプローチはワークサンプリングによる稼働率の測定です。
稼働率は、機械の稼働率測定と人の稼働率測定の2段階に分けて実施します。
機械の稼働率測定は、各機械の稼動状態をサンプリング方式で測定します。
ちなみにサンプリング方式とは、ある瞬間に稼動しているかどうかを測定し、その全測定回数のうち、何回稼動していたかを計算することで、稼働率を推測する方法です。例えば100回測定して、そのうち90回は稼動状態にあったけれども10回は段取り変えや故障で停止していたとすれば、この機械の稼働率は90%となります。
次は作業員の稼働率測定です。作業員の場合には、さきに説明した「主作業」「付随作業」「付帯作業」「職場余裕」「作業余裕」などの作業内容を具体的にメンバーで話し合って、どの作業がこの分類の何に当たるかを決めることから始めます。
そして各々の作業を作業分類表に整理したうえで実際の測定に移ります。
やはりこの測定もサンプリング手法を用いて行い、全作業のうち、何%が主作業であり、何%が付随作業か、何%が付帯作業か、余裕は何%か、という数値を割り出します。
22.稼働率の実例
色々な工場をこのワークサンプリング手法で測定した実際の「主作業比率」を見ると、次のような測定結果が出ています。
- 機械組み立て工場・・・・・33%
- 縫製工場・・・・・・・・・85%
- 裁断工場・・・・・・・・・70%
- 卸売りの畳表加工工場・・・30%弱
- 切削加工の大量生産工場・・90%
- お菓子工場・・・・・・・・50%
- 建築業・・・・・・・・・・12%
これらの測定値はある企業を過去に測定した結果です。業界平均ではありませんので、この数値は企業によって異なりますので、注意下さい。
23.工程改善
工程分析、稼働率分析を行なった場合、次のような課題が明確になることが多くあります。
- 加工の比率が少ない
- 運搬作業の比率が多い
- 停滞が多い
- 流れが複雑
これらの課題解決に対して、検討することとなるポイントは次のようなものです。
- 無駄な工程はないか
- 本来必要な工程が無視されていないか
- 機械の配置が適切か
- 運搬方法は適切か
そして次のような改善ポイントが取られることが多くあります。
これらの課題、着眼点、改善ポイントはその工場によって、色々と変わることを留意下さい。
24.稼働率の改善ステップ(1)
稼働率の改善を考える場合、最初に行なうのは、「要因の洗い出し」です。この手法は特性要因図を用いて行ないます。例えば付帯作業が多いため、付帯作業を削減するための対策(改善策)を検討する目的で特性要因図を作成する場合、付帯作業となっている要因を例えば「段取り」、「手直し」、「運搬」、「探す」などの付帯作業となっている要因をまず挙げて、その要因の発生原因となっている2次要因をさらにカードで表現していきます。
このような特性要因図を作成すると、付帯作業の要因が漏れることなく表現できることとなります。
これら全てを改善することは効率的ではありませんので、この中から課題を絞り込んで改善策を検討することとなります。
25.稼働率の改善ステップ(2)
前述の特性要因図と同じような発想ですが、もう一つの手法は、要因分析表の作成です。
この方法は「なぜなぜ手法とも呼ばれていますが、ある要因が発生するのはなぜか、そしてその要因が発生する要因は何か、さらにまたその要因は・・・となぜなぜを続けていって、真の要因にたどり着くまで要因を探し求める方法です。
この分析を行なった場合、対策が立てられるまで要因を掘り起こしてゆけばその要因が最後の要因となり、対策も示していることとなります。
26.稼働率の改善ステップ(3)
もう一つの改善策を探し出す有効な方法は、「ブレーンストーミングによるアイディア出し」や「カードを用いた発想会議」によってメンバーや作業者のアイディアを集めることも非常に有効です。
作業している人達は自分なりに作業改善のアイディアを持っているもので、それを言い出したり提案したりする機会がないまま今までのやり方を続けているケースも多くあります。
しかし、この機会に真剣に作業効率の改善を行なうことが期待されます。
この場合、他部署の対応が原因で効率が落ちているという指摘も多く出ます。
例えば図面の表示が悪いために現場での確認作業に手間取っているとか、顧客の指示が遅いために納期遅れが発生する、などの意見も出されますが、これらの課題解決も出来る限り会社全体で行なう必要があります。
そして改善案が決まったら、その実施を実践計画という形で誰がいつ行なうかを明確にします。
27.レイアウトの改善(4)
レイアウトの改善も行なう場合がありますので、簡単に述べて見ます。
レイアウトの改善は、「レイアウト関連分析」という手法を用いて行ないます。
この方法は、工場内の設備名、置き場、棚、などの名前を列記してそれらの関連を近接度という尺度を用いて表現する方法です。
A=絶対に近接していることが必要な関係
E=特に近接していることが必要な関係
I=近接が必要
O=出来れば近接しているのがよい
U=近接は不要
X=隔離する必要がある
これらの金節度評価を行なった後に、「活動関連図」を作成し、配置を決定する基本情報とする方法です。
28.生産性向上の考え方
さて、生産性を向上するという意味を再度検討して見ましょう。
まず、ある工場で改善前の主作業比率が33%であったとします。この工場で改善活動を実施し、活動後の「主作業比率」が45%に改善されたとすれば、この工場の生産性は何%改善されたことになるのでしょうか?
実は、この工場の生産性は、
45%-33%
改善後の生産性=--------×100=36.4%
33%
となり、生産性は36.4%改善された結果となります。この数字は非常に大きな改善成果です。
29.流通・サービス業の労働時間短縮(生産性向上)
流通・サービス業ではどのような労働時間短縮が可能となるか、検討してみます。
Step1 現状把握
流通業やサービス業では、サービス残業の問題や過剰な残業維持間の問題が多くの企業で大きな課題となっています。
さらに人件費の削減も経営課題となっていることが多いので、実労働時間の削減と人件費の削減の両面からアプローチすることを考えましょう。
まず、アンケートによる従業員満足度調査を行なって従業員の意識を調査します。この調査によって、社員の皆さんの満足度、不満度が測定されます。そして次は、やはり流通やサービス業においても現状把握です。どのような作業がいつ行なわれているのかを把握する必要があります。
残業時間の作業内容、定時間内での作業内容などを測定します。この測定方法は従業員に作業日誌を記入してもらったり、インタビューによって聞き取りするなどの方法を取ります。
さらに、顧客などの相手のある仕事の場合には、その相手との関係についてもインタビューで調査する必要があります。 流通・サービス業では、もう一つの現状把握を行ないます。それは労務管理の実態です。フレックス制を採用しているのか、変形労働時間を採用しているのか、などの実態調査です。さらに残業代にどれだけ支払われているかなどについても調査する必要があるでしょう。
Step2 改善案出し、検討
流通・サービス業における生産性向上の改善案としては、
(1) 作業効率化
事務作業の効率化として、色々な改善策を検討します。文書の標準化やファイル方法の改善などもあるかもしれません。またIT化を進めることが効果的かもしれません。
さらに、営業マンの稼働率増大についてはアシスタント制の採用なども効果的かもしれません。従業員教育も大きな課題となる可能性もあります。
もう一つの検討課題は、
(2)新しい労務管理制度の導入を検討することです。
変形労働時間制、シフト制などが人件費削減に効果を発揮することも容易に考えられます。
30.実労働時間の短縮
労働時間の短縮は決して難しい課題ではありません。
社員全員で協力し、全員の知恵を出し合って「楽に仕事のできる方法」を考え出すことが生産性の向上であり、決して労働強化による生産性向上ではありません。
ぜひ、生産性の向上という課題に正面から取り組むことの大切さを理解して下さい。